インターネットでA商標の情報を検索したいのにも関わらず、B商標の情報が出てくることがよくあると思います。その多くは、A商標が他人に検索用のキーワードとして設定されているからです。
ここ数年来、プロモーションリンクは新興のマーケティングツールとして、製品やブランドのプロモーションにとして非常に便利なものとなっていますが、他人の商標を検索キーワードに設定し、自社HPや広告へリンクさせて利用客数を高め、他人商標の知名度に便乗したことによる紛争も多く発生しています。
このような行為は違法なのでしょうか。それについては、以下の判例をご覧ください。
中国における係争の例
経緯
原告である精英商標事務所は、「精英」という商標を持っており、その商標で許可された役務は知的財産権コンサルティングや代理等の役務であり、広東省の著名商標に2度、選ばれたことがあります。
被告の一つである猪八戒会社は原告の同業者であり、中国最大手の検索エンジンサービスを提供する百度会社(もう一つの被告)との間に、キーワード検索プロモーションサービス(即ち、リスティング広告)を利用するという契約を結びました。その後、猪八戒会社は、「精英商標」を検索用キーワードに設定することで、検索エンジンのプルダウンメニューに「精英商標、精英商標事務所、精英知的財産権、深セン精英商標」を表示するようにし、上位の検索結果に「精英商標 八戒知的財産権」、「深セン精英商標――八戒知的財産権」等を表示させました。当該検索結果をクリックすると猪八戒会社のウェブサイトにアクセスすることになります。
原告は百度会社へキーワード削除のクレーム通知を出し、更に関連権利証明もアップロードしましたが、百度会社は、原告の通知を受けても速やかには権利侵害のリンクを削除しませんでした。このため、原告は商標権侵害及び不正競争を理由に提訴し、猪八戒会社に直ちに権利侵害を停止、経済損失を賠償するよう求める一方で、百度会社に対しても連帯責任を負うよう求めました。
判決
本案は第一審を経て、第二審に至りました。第二審は、「被告のキーワード設定行為は、商標権侵害に該当し、且つ原告の影響力のある企業名称への不正使用であり、不正競争にも該当するため、被告は直ちに権利侵害を停止し、原告の損失を賠償すべきだ。
その一方、原告が百度会社へ出した通知は、有効なものと見なされる。百度会社は原告の通知を受けた後、直ちに削除等の必要な措置を取らなかったことから、原告の被害がさらに拡大した。百度会社による原告の通知形式からその通知の有効性を否定するという抗弁は成立しない。百度会社はその賠償金額の一部について連帯責任を負うべきである」という判決を言い渡しました。
この判例の意義は?
裁判所によると、本案は検索エンジンの「リスティング広告」分野における典型的な権利侵害事例であり、下記2点を明確に認定したことに本件の意義があります。
一つ目は、検索エンジンのキーワード検索プロモーションサービスを利用し、勝手に他人の商標または企業名称を使用し、自身の検索キーワードとして設定する行為は、公衆の混同誤認を引き起こし、権利者に帰属すべき取引機会や合法的権益が損なわれる可能性がある場合、商標権侵害または不正競争に該当します。
二つ目は、本案の判決において、中国の権利侵害責任法第36条の「有効通知」の効力認定と証明基準を正確に適用し、「法律上は権利侵害におけるクレーム通知の形式について明確な定めはないが、権利者が出した通知書は、権利侵害の事実及び権利者の要求を明確に表明し、且つ権利証明を提供しており、相手に届けば、有効な通知と見なされる」という観点を述べました。
これは、百度会社が「インターネットユーザーからのクレーム経路が間違っていた場合や、内部処理の流れに合わない」という理由で、通知された削除の義務を履行しないという長期的な行為を否定し、その義務範囲を明確に定めただけではなく、インターネット企業の行動の規範化、つまりユーザーの権益の確保及びインターネットプラットフォーム経済における競争秩序の維持のために積極的な司法的作用を発揮した事が挙げられます。