後悔先に立たず・・・中国シェアサイクル大手ofoが商標権取得に暗雲
日本や中国のように商標制度において先願主義を採る国、簡単に言えば「早い者勝ち」の国では、1日でも早く商標出願することが重要なのは言うまでもない。しかし、その考え方がかなり浸透してきた現在でも、未だに手痛い失敗をする例はなくならないもの。最近では、グローバルにサービスを展開するシェアサイクル大手の中国企業が、事業展開の上で最も重要なブランド名の商標権取得に苦戦している。現状では実に典型的な失敗事例としか言えない本件、これから商標権取得を考えている皆様には是非読んで頂きたい。
苦境に立たされているのは、北京を拠点としてシェアサイクル事業を展開する北京拜克洛克科技有限公司(以下、「拜克洛克」)。中国では「ofo小黄車」、中国国外では「ofo」ブランドで、その名のとおり鮮やかなイエローの自転車を使ったシェアサイクルサービスを提供している。日本でも2018年に入ってから和歌山市、北九州市、大津市などでサービスを開始した。
2018年9月10日付の中国知識産権報によると、現在話題となっているのは拜克洛克が中国で出願した文字商標「小黄車」(注:実際の出願商標は中国語簡体字)。第9類のスマホアプリなどの指定商品について、先行類似商標2件を引用商標として拒絶されたため、現在これらの類似商標を潰すべく無効審判請求を行っているとのことである。
しかし、拜克洛克による本件出願が行われたのは2017年1月のこと。先行類似商標の調査を行っていれば、それぞれ2015年半ば、2016年初頭に出願された引用商標の存在が容易に分かったはずである。なお、引用商標の商標権者である上海企業は、2017年7月に拜克洛克を商標権侵害で起訴し、300万元の損害賠償を要求している(最終的には和解により決着)。
因みに拜克洛克のウェブサイトによると、同社の発足は2014年、シェアサイクルサービスをリリースしたのは2015年半ば。当時のサービスブランド名は「ofo共享単車」(注:漢字部分は中国語簡体字)であった。ただ、ブランドの根幹となる「ofo」商標の出願は2015年11月で、登録にはなっているものの指定商品はブザーや防犯装置などに留まっている。また「ofo共享単車」商標は2016年8月の出願で、これも指定商品は電子錠のみで登録を受けている状態。後続の「ofo ~~」という各種のブランド名称についても、シェアサイクルサービスの要となるスマホアプリ、コンピュータプログラム等を指定商品とする商標権取得は叶っていない状況である。
今後の展開についてはまだ継続的に状況を見ていかなければならず、またこれまでの経緯についても報道やデータからは推し量れない事情がある可能性もあるが、グローバル展開を加速する業界のトップランナーが、ここまで商標権の取得について後手後手の対応をしていることは筆者としては正直想定し難い状況であった。
- ブランド名決定の段階でなぜ先行類似商標の有無を踏まえて検討しなかったのか?
- ブランド名の選定と併せた問題として、将来的な事業としてシェアサイクルというアプリ連動のサービス提供を考えていながら、なぜこれらに関連する商品・役務を指定した確実な権利取得ができるような手立てを早期に検討していなかったのか。
・・・など、思うところは尽きない。
中国をはじめとするアジア圏の商標出願に関する相談をお受けしていると、上記と似たような状況に遭遇することも少なくない。特に、「指定商品○○については今回出願しますけど、△△についてはとりあえずもう少し先でいいです。」という回答を頂くことは非常に多い。
勿論、商標出願にかけられるコストの問題もあるので、出願人様のご意向を尊重する場合が殆どだが、本当は声を大にして言いたい。
「もうちょっと後で、なんて考えていたらあっという間に取れない状況になってしまいますよ」と。
将来の事業展開を鑑みて、先々注力する可能性が高い商品・役務(サービス)については、先延ばしにしないで早期に商標権を取得しておくのが大原則である。
商標権の取得については、是非長期的な視野でご検討頂きたい。
(日本アイアール A・U)