貴州茅台の商標登録

貴州茅台の商標登録またも叶わず、「国」という文字を含む商標登録の可否とは

皆様、中国のお酒はお好きでしょうか?

中国の宴席などで出されることの多い白酒(バイジウ)の代表ともいえる「茅台(マオタイ)酒」、召し上がったことはなくとも、おそらく名前は耳にしたことがおありでしょう。
この茅台酒を製造する中国の酒造大手企業が商標登録問題で苦境に立たされています。

2019年9月18日付の中国質量報によると、貴州茅台酒廠(集団)有限公司(以下、貴州茅台)が酒類に関わる33類の商品を指定して出願した商標「茅台国宴」について北京知識産権法院に行政訴訟を起こしていたところ、請求を却下されたとのことです。実はこの出願、2002年10月11日にされたもので、貴州茅台は約17年に亘って拒絶不服審判や異議申立不服審判、訴訟を続けてきました(今回の訴訟については3年の月日を費やしています)。この経緯を見ると、「茅台国宴」は貴州茅台にしてみれば何としても取りたかった商標だと分かりますが、なぜ登録が認められないのでしょうか。

元々、商標評審委員会は貴州茅台の出願に対し、「『国宴』は国家元首若しくは政府首脳が国賓を招待、又は特別な祝日に各界の名士を招いて催す宴会を意味するため、酒類の商品を指定して商標登録出願した場合、商品の品質、等級を大衆に誤認させるなどの悪影響を及ぼしやすく、商標法第10条第1項第7号、第8号の状況に該当する」として、登録を認めないという判断を下していました。

これを不服とする貴州茅台は北京知識産権法院に訴えを起こしましたが、その言い分は次の通り。「茅台酒は醤香型(※香型=味や香りにより決められる分類)の白酒の代表で、極めて高い知名度を有し、これまで重要な歴史上の様々な宴会においてふるまわれてきたものである。「茅台国宴」は、貴州茅台が政府主催の宴会専用に供する茅台酒のために出願した商標で、アルコールを含む液体等の商品に使用しても、大衆が商品の品質などの特徴を誤認するとは考えられない。悪影響を及ぼすこともない」。

北京知識産権法院は貴州茅台が提出した知名度に関する証拠は認めたものの、大衆による品質誤認が起こりえないという言い分は認めず、また酒類において「国宴」を含む商標に独占権を付与することは、他の同業の経営者との間の公平を失し、公共の利益にマイナスの影響を及ぼすとして貴州茅台の請求を退けました。

実は貴州茅台、別の出願商標「国酒茅台」についても昨年自ら行政訴訟を取り下げて登録を断念しており、ブランド名の商標登録に関しては芳しくない状況が続いています。「茅台国宴」についても、上訴するかは不明ですが登録が困難であろうことは想像に難くありません。

貴州茅台は大手ですので、その商標登録については、品質誤認のほか同業他社との不公平を招くおそれも拒絶の大きな要因になっているのですが、実はもう1つ、考慮すべき点があります。それは商標に含まれる「国」の文字です。

中国では2010年に≪「中国」を含む、及び頭文字が「国」である商標の審査審理基準≫が公布されており、その中で、「国+指定商品名称」から成る商標、若しくは「国+指定商品名称」を含む商標については、「誇大宣伝であり且つ欺瞞性を有する」、「顕著性に欠ける」、「悪影響を及ぼす」という理由で拒絶する、と定められています。また、そうでなくとも「国」という文字を用いた商標に対しては特に厳格な審査が行われるため、同じ酒類を指定して「国」を含む商標を出願している他のメーカーの登録も順調とは言い難い状況です。
貴州茅台が知名度抜群のトップクラスのメーカーであるといえども、この審査審理基準が平等に適用されることに変わりはなかったのだろうと考えられます。

(日本アイアール A・U)

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