欺瞞的な手段で登録となった商標であっても後日譲渡することにより、この違法性を変えることができるでしょうか。
またこのような商標を譲受た場合、どのようなリスクが考えられるでしょうか?
中国における係争の例(裁判例)
以下の判例をご覧ください。
経緯
陳氏は個人工商戸営業許可証を持って、係争商標「REDLINE」を出願しました。当該係争商標は、登録後、A社に譲渡されました。その後B社が当該係争商標に対し無効宣告申請を提出し、陳氏が出願時に個人工商業者営業許可証を偽造したため商標法の規定に違反したと主張、その主張を証明するための証拠を提出しました。
元商標審査委員は、係争商標が欺瞞的な手段で登録をされたと判断し、当該係争商標に対し無効宣告を行うと決定しました。係争商標の譲受人A社は当該決定を不服とし、北京知的財産権裁判所に提訴しました。A社はその譲受が善意で合法的譲渡手続きを経たものであり、且つA社が陳氏の違法行為を知らなかったため、A社の合法的権益を保護すべきだと主張しました。
判決
北京知的財産権裁判所は、A社の主張を却下しました。A社は第一審の判決に承服せず、北京市高級人民裁判所に上訴しましたが、第二審の判決も変わらず、A社の主張を却下しました。北京市高級人民裁判所は、ある商標が商標法で定められた欺瞞的な手段で登録されたものに該当するか否かの判断基準は商標出願時の行為に対してであり、商標権の譲渡がその出願行為自体の違法性を変えるものではない、と強調しました。
上記判例が示すように商標が違法行為を通して登録となったものは、後日それが譲渡された場合でも、譲受人は元出願人の違法行為を知らず善意で譲受たという抗弁はできません。
どのような行為が商標法に違反した出願となるのか?
商標法に違反した出願行為は、通常下記のように3種類に分けられています。
①欺瞞的な手段で商標登録を得る行為
出願人が商標局に対し事実を捏造し、申請書類または証明書類を偽造した上で提出し、商標の登録を得る行為を指します。
例)申請書類の署名や印鑑を偽造したり、身分証や営業許可証等のような身分証明書類を偽造したり、前述身分証明書類の重要な記載事項を改ざんしたりする行為等。
②不正な手段で商標登録を得る行為
出願人が欺瞞的な手段以外の方法で商標出願の秩序を乱し、公共の利益を損なったり、不正に公共資源を占有したり、又は他の方法で不正な利益を得るために商標登録を取得する行為を指します。
例)意図的に他人の有名な商号、商品名称、包装、装飾等と同一又は類似したものを出願する行為、使用する予定もない大量の商標を出願する行為等。
③実際に使用する意図はなく不正利益を得る目的で出願する行為
出願人が商標を実際に使用する行為又はその意図が無く、積極的に他人に商標を売り込んだり、もしくは他人に協力を強要したり、他人に高い譲渡対価、許可使用料、侵害賠償金等を要求したりする行為を指します。
商標を譲り受ける際、何に注意すべきか?
前述の通り、ある商標が欺瞞的な手段またはその他の不正な手段で登録されたものの場合、当該商標の譲受人が、その譲渡自体には過失が無く商標の登録を許可又は維持すべきと主張しても、通常は認められません。
このため他人から商標を譲受る前に当該商標が後日第三者に無効宣告を申請され、既に自社が行った宣伝および使用したなどの行為が無駄になるというリスクを避けるため、譲渡人(元出願人)の出願行為が商標法の規定に違反していないかを詳しく調べるか、譲渡契約時に契約内容の条件として列挙しておく必要があります。