2019年9月6日付で、上海市浦東新区人民法院は、ある商標権侵害案件において原告人が提出した300万元損害賠償金の請求を支持しました。
報道によると、これは上海で初めての知的財産権侵害による「懲罰的損害賠償」を認定した案件でした。
この案件は、中国企業B社が生産・販売するフィットネス設備が自分の商標権を侵害しているとして、商標権者である外国企業A社がB社を訴え、権利侵害行為の停止及び弁護士費用、公証費用などを含む、経済的損失計300万元の賠償金を請求した事案です。
審査を経て、上海市浦東新区人民法院は、本件において権利侵害行為により取得した利益が100万元を超えたと判明した上、被告人の商標権侵害行為は新商標法の懲罰的損害賠償の要件を適用できると認定し、原告人の賠償金請求を全額で支持しました。
当該案件は中国の裁判所が受理・審査した多くの知的財産権案件の中の一般的な案件の一つであり、それほど複雑な事情があったわけではありませんが、画期的な意味を有しています。上海市浦東新区人民法院は当該判決を通じて、新商標法(2013年商標法)施行後の懲罰的損害賠償制度の適用要件の審査などの面において、積極的な試みをしました。
知的財産権の司法的保護においては、今後の同様な案件の審査にとって重要な参考価値があります。
現在の中国にとっては、懲罰的賠償金制度を運用して悪質な商標権侵害行為を取り締まることにより、商標専用権の保護環境をより一層改善したり、法律がより普及する効果は確実にあると言えるでしょう。同時に、知的財産権の保護制度についての決意と姿勢を世界中の諸国にアピールすることもできます。
ここ数年、中国の知的財産権事業の発展スピードはまるで高速道路を走っているかのようです。
数年の間、中国の新規商標登録出願件数が世界一の座を占めており、商標・ブランドの創造力や、保護の効果及び国際的影響力も高まりつつあります。
更に、世界知的所有権機関(WIPO)が発表した『2019年版のグローバル・イノベーション・ インデックス(GII)』によって、中国の順位は昨年の17位から14位に浮上し、速い上昇スピードを維持しています。
ただし、依然として商標権侵害行為も多くあります。
その根本的な原因を分析すると、利益に誘惑されることはもちろん、やはり違法行為の代償が低すぎたという点も否めないでしょう。
2013年商標法改正前は、商標権侵害の法的賠償金額は50万元以下でした。この金額だと、権利侵害者の方にメリットが出てくるケースも多くなります。
低額の損害賠償金額は悪質な権利侵害者への脅威になりません。商標権者にとっても、権利を主張する際に「1元を取り返すために10元を払うのか?」という難しい判断を迫られ、逆に権利侵害者を助長することになりました。
2013年の商標法改正では、中国は初めて知的財産権分野に懲罰的賠償金制度を採り入れ、最高賠償金額を50万元から300万元まで引き上げました。
この改正の目的は違法行為への代償を大きくし、権利侵害行為を減少することでした。しかし、各地の司法プラクティスでは、直接的に懲罰的賠償金制度を適用して、高額な賠償金を支持する案件は多くはありませんでした。その原因は、当該制度を適用するための事実認定が難しいという点にあるようです。
2019年の商標法改正では、賠償額がさらに引き上げられた一方で、法律の適用方法には詳しい基準が定められていないという状況にあります。本件の上海市浦東新区人民法院の試みが、今後の同様な案件の審査において重要な参考価値があるだけではなく、中国の知的財産権の保護体系に関する更なる強化にとって大きな意味があると考えられます。
(北京恵利爾商標代理有限責任公司)