中国での抜け駆け登録による「権利行使」
実務において、不正な利益を得るために他人の未登録商標を抜け駆け登録し、商標権を取得した後、実の商標権利者に対して訴訟を提起したり、クレームをつける行為が見受けられます。果たして、このような行為が望んでいる結果となるでしょうか。判例を見てみましょう。
中国の判例を見てみましょう
A社は呼吸防護用品の専門企業であり、長期的、継続的に「MASkin」ブランドを使用していました。「MASkin」の他にも、「maskin」、「
B社及びその関連企業C社は、経営者である徐氏の指示に従い、「MASkin」、「BENEHAL」、「必利好」など16件の商標を抜け駆け登録し、Wechat公式アカウントを開設しました。その後、B社がその抜け駆け登録した商標を根拠に、A社に対して著作権及び商標権侵害に関する訴訟を3件起こしただけではなく、市場監督管理局やその業界の協会へ3回以上のクレーム、T-mallやタオバオ等のECサイトへ23回ものクレームも行いました。
同時に、B社とC社がインターネットを利用して一方的な誤解を招きやすい情報を流して、A社の名誉を大きく傷つけました。B社の行った訴訟とクレームに対応するために、A社は多大な時間と労力を費やし、正常な経営活動にも大きな影響を受けしまいました。そのため、A社が不正競争の理由でB社とC社を起訴し、不正競争行為の停止、損失と合理的な支出に関する賠償を合計300万元請求しました。
A社の損害賠償請求300万元を全額支持
裁判所の意見では、B社らは明らかにA社の長い間、使用してきた「MASkin」マークを知っています。それにも関わらず、B社らは悪意を持って抜け駆け登録し、更に抜け駆け登録を基に知的財産権侵害に関する訴訟やクレーム申立等を行いました。B社らの行為は、A社の利益に損害を及ぼし、不当な利益を得るための悪意のある「権利行使」行為に該当します。
B社がWechat公式アカウントを開設した行為には、正当な権利根拠がなく、A社の経営を妨害するという悪意があります。また、B社とC社がA社の有名商標と同一・類似する商標を抜け駆け登録して使用しただけではなく、A社を脅迫したこともあり、正常な商標登録管理秩序と競争秩序を乱しました。
なお、司法機関や行政機関において、権利侵害が認定されていないうちにB社が不当な発言をして、A社の商業的な信用と商品の評判を損なったことは、誹謗中傷に該当します。B社らの行為は不正競争に該当し、権利侵害行為の停止と損害賠償責任を負うべきです。最終的に裁判所は不正競争行為の内容、損害の結果及び侵害者の主観的悪意等を総合的に考慮し、A社の損害賠償請求300万元を全額支持しました。
不正行為を効果的に抑制するために大きな意義がある
上記案件は、抜け駆け商標登録を利用して権利者に対して悪意のある訴訟、クレーム、誹謗中傷等を行う案件の典型です。
裁判所が権利者の損害賠償請求を全額支持したことは、悪意のある抜け駆け登録所有者に重大な代価を払わせ、悪意訴訟等の不正行為を効果的に抑制するために大きな意義があると思います。
(北京恵利爾知識産権信息諮詢有限責任公司)