序言
2023年4月19日、中国国内で「童話大王」という雑誌を創刊し、「童話大王」と呼ばれていた有名な作家である鄭淵潔氏が「これからは商標権の権利主張をせず、作品を発表しない」と宣言を中国微博(ウェィボ)に発表しました。
その理由は鄭淵潔氏が1982年から創作していた作品の中の皮皮魯(ビビロ)、魯西西(ロシシ)、舒克(シュカー)、貝塔(ベイター)等のキャラクターが他人の商標、商号等に無断に使用され、その件数が710件にのぼり、21年間に37件しか解決できなかったからと言いました。
一、鄭淵潔氏の紹介
鄭淵潔氏は上記に提言したように中国では著名な童話作者であり、多くの作品はアニメに編集されています。現在もその人気は続いています。著者は1980年代の生まれですが、子供の時から舒克(シュカー)、貝塔(ベイター)等のアニメを見ており、そのキャラクター等は当時からずっと有名でした。
二、焦点になるのは―先行権利
中国商標法32条によると「商標の申請登録は他人の既に存在している先行権利を損害してはならず、他人が既に使用し、且つ一定の影響力を有する商標を不当な手段を用いて商標を登録してならない」と定めています。
つまり、商標の登録や商号の登録はそのキャラクターより早く存在していたのか、それともそのあとに登録したのかです。
三、焦点になるのは―主観的悪意
すなわち、既存の有名なキャラクターにただ乗りをしようとする主観的悪意があるか否かです。
四、無効の申請
鄭淵潔氏の権利主張は21年間を通じて37件のみの結果が出ており、その中でもすべてが認められたわけではありません。
1.認められた無効の申請-(2018)京73行初10694号、北京知識産権法院行政判決書(この判決は一旦無効の申請が認められ、その後、元商標権者が訴訟を提起した判決です。)
原告:石家庄東勝紙業有限会社
被告:国家知的産権局
第三者:北京皮皮魯(ピピロ)総動員文化科学技術有限会社(鄭淵潔氏の作品の著作権の専用使用権者です。)
本件は原告が商標権の無効の申請により国家工商行政管理総局が出した商標評審査委員会の無効宣告裁定書に不服し、北京知識産権法院に提訴したものです。
「法院の判断:
- 第三者が提出した漫画、図書、雑誌、動画作品、新聞報道等の証拠から見ると係争商標の申請日の前から「舒克(シュカー)」は童話作品のキャラクターとして一定の知名度があり、先行権利として保護を受けるべきである。
- 係争商標の漢字は「舒克」であってこれは第三者の童話作品のキャラクターの名称である「舒克(シュカー)」と文字構成は同一である。
- 「舒克(シュカー)」が童話作品のキャラクターとしての知名度から見ると、原告は周知しているはずであり、且つ、「舒克(シュカー)」は常用単語の構成ではないにも関わらず、商標申請時に合理的な回避をしておらず、主観的な善意は認められ難い。
- 係争商標は「トイレットペーパー、ティッシュペーパー」等の日用品に使用しており、これは動画作品から派生するものとしては通常の選択肢であるので係争商標を上記の商品に使用することは一般消費者に「舒克(シュカー)」作品の権利人の許可または権利人と特定の関係があると誤認させる恐れがある。
上記から見ると、原告が係争商標を申請登録する行為は第三者の童話作品のキャラクターの知名度および影響力を不当に利用したことになり、第三者のキャラクター名称により享受できる市場の優越的地位や取引チャンスを利用したことになり、第三者の「舒克(シュカー)」に対する先行権利の享受を損害し、2001年商標法の31条の「商標の申請登録は他人の現存する先行権利を損害してはならない」の規定を違反している。それゆえ、裁定の結論は正しい裁定であり、維持する。」と判断しました。
このように上記の理由により裁判所は商標の無効裁定を維持しました。
2.認められなかった無効の申請
上記のように侵害が認められる事案もあって、認められない事案もあります。
2022年7月に鄭淵潔氏はドイツの会社が出資した「舒克(シュカー)(上海)管道設備サービス有限会社」の企業名称に許可なく使用した「舒克(シュカー)」の文字は鄭淵潔氏の先行権利を侵害したとして上海市場監督管理局および国家市場監管総局に報告をしました。ところが、2023年2月20日、国家知的財産権局は無効申請を認めない裁定をしました。
国家知的財産権局は「申請人(鄭淵潔氏)の提出した本案の証拠の多くは「舒克(シュカー)と貝塔(ベイター)」が書籍、アニメーションの名称などの宣伝に使用した証拠であり、係争中の商標の申請日前に申請人が係争商標と同一または類似する商標を係争商標の使用している圧力弁(機器部品)と同一または類似商品に使用し、且つ一定の影響を有することを証明するには足りない。それゆえに、係争商標の登録は「商標法」の32条の「・・・他人が既に使用し、且つ一定の影響力を有する商標を不当な手段を用いて商標を登録してならない」の規定に違反しないとする」と判断し、申請人の鄭淵潔氏の無効申告理由が成立しないと判断をしました。
五、まとめ
上記のように先に登録された商標が侵害になるか否かについては1.先行権利の侵害であるか否か、2.悪意のただ乗りのための先登録であるか否かになります。
また、今回認められなかった事案の被申請人のドイツ本社の企業名称は「FRANZ SCHUCK GMBH」です。「SCHUCK」はドイツの苗字であり、鄭淵潔氏の先使用権はあるものの、自分の苗字を使用する自由は妨げることはできないでしょう。かつ、ドイツの会社は1972年に成立しており、中国会社は2008年に設立する際に「SCHUCK」を「舒克(シュカー)」と翻訳したのです。鄭淵潔氏の主張からすると「SCHUCK」の中国語の翻訳の仕方は様々であるので、敢えて「舒克(シュカー)」という一つの選択肢しかあるわけではないですが、どの読み方にするにまで被申請人の自由を妨げるのはできないでしょう。
(日本アイアール株式会社 K・F)